2025年12月、オーストラリアが世界で初めて「16歳未満のSNS利用禁止」を法制化・施行した。それからわずか数カ月で、スペイン・ギリシャ・フランス・英国と規制の連鎖は欧州全域に広がり、EU本体もTikTokへの「中毒性設計」認定という形で巨大プラットフォームへの圧力を強めている。そして2026年2月末、日本の国会でも未成年のSNS利用規制をめぐる議論が始まった。
この流れが業界に与える影響は、単なる「ルール変更」ではない。インフルエンサーマーケティングにとって最重要なターゲット層のひとつ──Z世代・α世代の10代──がSNSから物理的に切り離される可能性が現実味を帯びてきた。本記事では最新の各国動向を整理したうえで、MCN・マーケターが今すぐ取るべき戦略的判断を考察する。
オーストラリア発の「規制ドミノ」── 世界の動向を整理する
世界初の施行:オーストラリア(2025年12月)
2025年12月10日、オーストラリアは「オンライン安全改正(ソーシャルメディア最低年齢)法」を施行した。対象プラットフォームはInstagram・Facebook・Threads・TikTok・X・YouTube・Snapchat・Reddit・Twitch・Kickの10社。16歳未満のアカウント保有を禁じ、違反した企業には最大4,950万豪ドル(約51億円)の罰金が科される。罰則の対象はあくまでプラットフォーム企業であり、子どもや保護者に罰則はない。
施行後、Metaは法対応として16歳未満のアカウントを順次無効化。オーストラリア政府の発表によれば、施行から数カ月で470万件以上のアカウントが停止された。一方でVPNを使った回避や、規制対象外のメッセージングアプリへの流出といった「抜け穴」問題も浮上しており、実効性を巡る議論は現在進行形だ。
それでも、この法律が世界に放ったメッセージは強烈だった。オーストラリアのオンライン安全規制当局は「世界は追随するだろう。かつて各国がタバコのパッケージや銃規制改革で我々に続いたように」と宣言している。
欧州に広がる規制の連鎖
オーストラリアの施行を受け、欧州では怒涛の勢いで規制議論が加速した。
フランス(2026年1月):国民議会(下院)が15歳未満のSNS利用を禁止する法案を116対23で可決。上院での審議を経て成立に向かっている。
スペイン(2026年2月):ペドロ・サンチェス首相がドバイで開催された「世界政府サミット」の演説で、16歳未満のSNS利用禁止方針を表明した。「子供たちをデジタルの無法地帯から守らなければならない」と訴え、プラットフォーム企業への年齢確認義務化と、違法コンテンツを放置した場合の経営者責任追及も盛り込む方針だ。ただし、サンチェス氏が率いる政党は下院で過半数を持っておらず、法案成立の見通しは流動的な部分もある。
ギリシャ(2026年4月):キリアコス・ミツォタキス首相が──規制対象であるはずの──TikTokに動画を投稿するという逆説的な形で、15歳未満のSNS利用禁止を発表した。「中毒性のある設計と、皆さんの注意をひきつけ、どれだけ長く画面の前にとどまるかに基づくビジネスモデルは、皆さんの純粋さと自由を奪う」と若者に語りかけ、2027年1月からの施行を目指している。ギリシャはEU全体での統一規制も要請しており、欧州レベルへの波及を狙う。
英国(2026年1〜3月):政府が2026年1月19日に16歳未満のSNS禁止についての公開協議を開始。同年3月12日には英情報通信庁(Ofcom)と情報コミッショナー庁(ICO)が共同で、主要SNS運営企業が「独自の利用年齢制限を適切に運用していない」として警告を発し、子どもの利用禁止に実効性を持たせる追加対策を要求した。英国では無限スクロールなど「依存性を助長する設計」の制限も同時に検討されている。
EUはTikTokの「中毒性設計」をDSA違反と認定
2026年2月6日、EU欧州委員会はデジタルサービス法(DSA)に基づく調査の結果、TikTokの無限スクロール・自動再生・プッシュ通知・高度パーソナライズのレコメンデーション機能が「中毒性を意図した設計」に当たり、DSAに違反するとの暫定判断を下した。
欧州委は、これらの機能が「子どもや脆弱な成人を含むユーザーの心身の健康にどのような悪影響を及ぼすか、TikTokは十分に評価していなかった」と指摘。仕様を変更しない場合、世界売上高の最大6%の制裁金を科す可能性があると警告した。これは「中毒性の設計そのものが規制対象になる」という歴史的な判断であり、TikTokに限らず全プラットフォームに事業モデルの見直しを迫る先例となる。
日本はどう動くか── 規制の波及シナリオ
高市総理の答弁と「令和8年(2026年)」という期限
2026年2月26日、参議院本会議で自民党の上野通子参院副幹事長が未成年のSNS利用規制について質問したのに対し、高市早苗総理大臣は「青少年を有害情報や依存から守り、安全で安心してインターネットを利用できるような環境整備が重要です」と述べた。そのうえで「中長期的な検討を要するものについては、令和8年(2026年)を目途に具体的な内容を取りまとめていく」と答弁した。
この答弁は、欧米のような「年齢による一律禁止に踏み込む」ものではなく、現行の「青少年インターネット環境整備法」の枠組みを基本としながら、子どもの有害情報対策・依存対策の強化策を整理していく姿勢を示したものだ。ただし「令和8年内に具体的な取りまとめ」という明確な期限が示されたことは、業界にとって無視できないシグナルである。
日本固有の課題と現行法の限界
日本では現行法上、携帯電話会社やフィルタリングサービス事業者に責任が偏在しており、プラットフォーム企業への直接規制は手薄な構造がある。こども家庭庁が2025年8月に設置した有識者会議では、自画撮りによる児童ポルノ被害リスク、アダルト広告などの有害コンテンツリスク、依存・メンタルヘルス問題といった多層的な課題が整理されているが、「禁止」よりも「教育・啓発」重視の方向性が色濃い。
一方、社会的背景として、日本の10代のSNS利用率は国際的に見ても高水準にある。ICT利活用が教育現場でも進む中、「全面禁止」は教育的観点からも慎重論が多い。こうした国内事情を踏まえると、日本の規制は「欧米流の年齢制限」よりも「アルゴリズム規制・プラットフォーム責任強化」の方向に進む可能性が高い。
2026年後半〜2027年の法制化シナリオ
現実的な日本の規制シナリオを整理すると、以下の3段階が想定される。
シナリオA(2026年内):現行法の強化──青少年インターネット環境整備法の改正により、フィルタリング義務の範囲をSNSアプリへ拡大。プラットフォーム企業への年齢確認措置強化の努力義務化。
シナリオB(2026年末〜2027年):プラットフォーム責任法制の整備──EU DSAを参考に、大規模SNSに未成年向けの「依存促進設計の禁止」と「年齢別コンテンツ推薦制限」を義務付ける新法。罰則付きの届出・報告義務。
シナリオC(2027年以降):年齢制限の法定化──欧米の規制動向と国内世論を受け、15〜16歳未満のSNS利用を法律で制限。ただし教育利用や保護者同意による例外措置を設ける形が有力。
政治的に見れば、SNS規制は与野党を超えて支持を得やすいテーマだ。少子化・子どものメンタルヘルス問題が喫緊の政策課題となる中、2026年内の参院選(もしくは衆院選)を見据えた政策的アピールとして、具体的な規制措置が前倒しで提案される可能性も排除できない。
インフルエンサーマーケティングへの構造的影響
10代リーチ手段の激変
インフルエンサーマーケティングにおいて、TikTok・Instagram・YouTubeなどのSNSは10代へのリーチに不可欠なチャネルだ。もし日本でも年齢制限が法制化された場合、特に以下の影響が深刻になる。
- 10代前半(13〜15歳)への直接リーチが消失:最も購買意欲の形成期にあり、トレンドの発信源となる層へのアクセスが制度的に遮断される。
- Z世代インフルエンサー本人の活動制限:15〜16歳未満のユーザーが多いZ世代インフルエンサーが自身のアカウント運営を継続できなくなる可能性がある。
- 広告配信ターゲティングの制度的制限:未成年へのターゲティング広告が禁止されるだけでなく、推定年齢ベースのターゲティングデータ自体が収集不可になる可能性がある。
ターゲティング設計の再構築
規制が現実化した場合、マーケターはターゲティング戦略を根本から見直す必要がある。考慮すべき主なシフトは以下のとおりだ。
「親世代」を経由した間接アプローチ:10代の消費行動に影響を与えるのは本人だけでなく保護者だ。20〜40代の親世代を対象とした「子ども向け商品の情報提供」という文脈でのインフルエンサー活用が重要性を増す。
YouTube・ゲームプラットフォームへのシフト:オーストラリアの事例では、YouTubeは「教育的要素がある」として規制対象から外れた。ゲーム内広告やYouTubeのBrand Safetyを活用したリーチ戦略が代替手段として浮上する。
「17歳以上」へのリターゲティング強化:規制対象外となる17〜19歳(高校生〜大学生)への働きかけを強化し、「制限が解除された直後の16歳」にリーチするためのブランド認知構築を早期から行う長期投資型の戦略も有効だ。
プラットフォーム別の影響度試算
TikTok:10代ユーザー比率が高く影響度は最大。すでにEUのDSA違反認定を受けており、日本での規制強化時には国内事業モデルの大幅な変更を余儀なくされる可能性がある。
Instagram / Threads:Metaはオーストラリアでいち早く年齢確認対応を実施した。グローバルのコンプライアンス体制はある程度整備されているが、ショッピング機能・ブランドコラボ機能における10代の役割は大きく、広告収益への影響は無視できない。
YouTube:教育・エンタメの二面性があり規制対象から外れやすい傾向にある。他プラットフォームから流出したクリエイター・ユーザーの受け皿として、規制後に相対的なポジションが強化される可能性が高い。
MCNが今すぐ取るべき先手の戦略
1. 所属クリエイターのポートフォリオ精査と年齢層分散
まず、所属クリエイターのオーディエンス年齢構成を今すぐ可視化することが急務だ。10代比率が高いクリエイターのチャネルは、規制によって即座にフォロワー数・エンゲージメントが減少するリスクを抱える。MCNとしては、クリエイターが20代以上のオーディエンスにも届くコンテンツへ移行できるよう、ブランディング・テーマの転換を早期から支援すべきだ。
2. SNS外コミュニティの構築支援
Discord・LINE公式アカウント・メールマガジン・ポッドキャストなど、SNS規制の影響を受けにくいプラットフォームでのコミュニティ構築を、今からクリエイターに提案・支援しておくことが重要だ。SNSがリーチ手段として機能しなくなった際に、既存のファンベースをどう維持するかが、クリエイターの生存戦略となる。
3. クライアントへの先行啓発と代替提案の準備
広告主にとって「10代へのリーチが困難になる」というシナリオは、マーケティング予算配分の大幅な見直しを迫る。MCNとしては今のうちから、代替チャネル(テレビ・OOH・ゲーム内広告・教育系コンテンツとの連携など)を組み合わせた「規制後の10代向けマーケティング設計書」を整備し、クライアントへの先行提案材料として活用すべきだ。
4. コンプライアンス・年齢確認プロセスの整備
日本で規制が導入された場合、MCNが所属クリエイターのコンテンツ制作・配信について「未成年向け広告の排除」「年齢確認未対応プラットフォームでの案件非実施」といったコンプライアンス体制を整えることが求められる。プラットフォームが年齢確認を義務付けられる段階で、広告案件の審査基準・契約条件の改定が必要になる。これも「規制後」ではなく「規制前」に準備を進めておく企業が競争優位を持つ。
5. 規制国でのパイロット学習と国内適用の先取り
オーストラリアではすでに規制施行から数カ月が経過し、「10代がどのプラットフォームに流れたか」「ブランドはどのチャネルで代替リーチを確保したか」という実データが蓄積されつつある。グローバル展開するMCNやエージェンシーは、海外現地法人・パートナーを通じてこの知見を積極的に収集し、日本市場での先行適用に備えるべきだ。
まとめ:「規制前夜」に動けるかどうかが分水嶺
オーストラリアの施行から4カ月で、スペイン・フランス・ギリシャ・英国・EUと規制の波は止まらない。日本でも2026年内に具体案の取りまとめが予定されており、法制化の射程は現実的なものとなってきた。
インフルエンサーマーケティング業界にとって、この変化は「若者市場へのアクセス構造」を根底から揺るがすものだ。しかし同時に、早期に対応した事業者は「規制後の新しい10代リーチ設計」を先占するチャンスでもある。オーストラリアの事例が示す通り、完璧な規制は難しくとも「社会のルールが変わる」という事実は揺るがない。MCN・エージェンシー・ブランドが今取るべき行動は、「規制が来てから動く」のではなく、「規制が来る前提で設計を変える」ことだ。
この記事はAIを活用して書いています。掲載している情報は執筆時点(2026年4月)のものです。法規制の動向は今後変わる可能性があります。最新情報は各国政府・規制当局の公式発表をご確認ください。



