(以下は、NationalGeographicのロボットに関する記事を翻訳・要約編集したものであり、元の記事・内容について当社が独自に制作・発信しているものではございません。)
「不気味の谷現象」をご存じだろうか?
それは目には見えない感覚だが、ChatGPTのようなプログラムが人間のように感情を表現することに一部の人々は”不気味な感覚”があるだろう。
本記事では人間が人型ロボットやAIが生成した画像を見たときに感じる不気味さや不快感について、あらゆる説から「不気味の谷現象」について読み解いていく。
科学者たちは、なぜこの現象が起こるのかについて、いくつかの説を持っている。
人工的な存在への不安感
人間であるとは何を意味するのか?
ロボットにこの質問をされると不安を感じることがある。
実際、人工的な存在があまりにも人間らしく見えたり人間らしく振舞ったりしたとき、あなたは「不気味の谷現象」を経験するだろう。
ガレス・エドワーズの映画『The Creator』は、この根源的な問いを提起している。映画内では、人工知能に関する我々の恐れが現実のものとなる。
AI技術の急速な発展は最近のことのように感じられるが、AIへの恐れは基本的な人間の生存本能かもしれない。
「不気味の谷」の概念は半世紀にわたり存在しているにもかかわらず、科学者たちは人工的な存在が私たちになぜこれほど不快感を引き起こすのかについて今も議論している。
病気を避ける本能という説から、人間性への脅威を感じているから、という説までさまざまだ。
一方で、ロボット工学者やAI研究者は不気味の谷を乗り越えるために奮闘しており、ソーシャルロボットを日常生活に取り入れようとしている。
将来、ロボットやAIがレストランで接客したり、高齢者の介護をしたり、子供たちに読み書きを教えたり、医科大学などで患者の代役として座っていたりするかもしれない。
ロボットが不気味の谷を乗り越えられるのか、そしてその方法は将来私たちが彼らとどのように関わっていくかかに大きく影響するだろう。
「不気味の谷現象(uncanny valley)」とは?
「不気味の谷現象」はロボット工学者の森政弘によって1970年にはじめて提唱された。
森はエッセイの中で、ロボットが人間らしい特性を持つにつれ好感を持たれるようになるが、あまりにも人間らしくなりすぎると不気味になると述べた。
そして、ほとんど人間と区別がつかなくなると、再び好感を持たれるようになると説明している。
ロボット工学者であり、1970年のエッセイの翻訳者であるインディアナ大学情報学およびコンピューティング学校の副学部長カール・マクドーマンは、森の理論は彼の個人的な経験に基づいていたが非常に影響力がある、と述べている。
しかし、マクドーマンによれば、森の不気味の谷に対する科学的な支持は賛否両論であり、それは確固たる法則ではなくむしろ経験則として考えるべきだと言う。
多くの年月を経て、研究者たちはあらゆる場面で不気味の谷を見つけてきた。人間と合成声、動物のロボット、そして家にも不気味の谷が存在するという。
「不気味の谷」を目にする
最近の研究で、マクドーマンと認知心理学者のアレックス・ディールは、「Configural Processing」と呼ばれる理論が最も支持されていると結論付けた。
これは、不気味の谷の反応が人間の顔の特徴の配置やサイズに対する私たちの感受性によって引き起こされるという考えだ。
また、関連する別の理論である「Perceptual Mismatch」によれば、例えば目はリアルなのに肌は非現実的である、など特徴の不一致に気づいたときに不快に感じるとされている。
この不一致は、いわゆる生成AI画像の問題と一致する。
進化論的な観点からは、これら人間の感受性が脅威を避けるという本能を引き起こす可能性がある。
ディールは人間のレプリカに欠陥を発見すると、その人が身体的に不健康である可能性や伝染病の潜在的な元である可能性があるというサインを感じ、嫌悪反応が引き起こされると説明している。
また、これは行動生態学にも類似している。
これによれば人間らしいロボットを嫌うのは、その欠陥が、良い相手ではないということを示していると本能が気付いているからだとされている。
別の理論では、人工物が不安を引き起こすのは、ゾンビのように不自然に生きているように見え、私たち自身の死について考えさせられるからだとされる。
不気味の谷の認知的説明には、我々は人工的なものに人間らしい特性や心を割り当てるという考えが含まれており、これが認知的不協和や混乱を引き起こすとされている。
我々がそれらを人間として扱うべきか、またそれらが人間のように振舞うと信頼できるかどうか分からないからだ。
より近年になると、人工物が不安を引き起こすのは推論、論理、感情などの人間の独自的な能力に挑戦しているからだと示唆されている。
最近のある研究では、人間らしいアンドロイドの相互作用が”何が人間であるか”を問い直すきっかけになったと報告している。
この研究を行ったアダム・ミツキェヴィチ大学の教授であるダヴィド・ラタイジックは、「ロボットは、ロボットについてよりも、私たち自身(人間)について多くを語ってくれるかもしれない」と述べている。
AIと不気味の谷 概念的な不気味さ
有名な1988年のビデオでは、CGIの赤ちゃんがおもちゃで遊ぶ様子が描かれている。
マクドーマンは、これが不気味の谷の典型的な例であり、視聴者が感じる感情は”非常に本能的で制御できない”と説明している。
彼は、これらの反応がユーザーがAIチャットボットと会話する時に得られる反応とは異なると述べる。「これは、森政弘によって定義された不気味の谷理論ではないと思います」と区別している。
しかし、ラタイジックはこれらを同じものだとみなしている。
実際、彼はロボットからチャットボットまでどんな人工物にも不気味の谷を引き起こす可能性があると考えている。
彼は最近の研究について、単純なテキストチャットボットの方が不気味さを感じさせないとしている。また、アバターが人間らしく見えるほど、チャットボットに嫌悪感を引き起こすと示している。
脳画像研究の一面からは、自動的で感覚的な反応と、思考や熟考を必要とする相互作用とでは脳の使用される部分が異なる可能性があると証明されている。
つまり、ロボットとのやり取りでは人間とのやり取りよりも解析的な脳の部分が使用される可能性があるとされている。
世代によってAIの感じ方は変わるのか?
Nadineというソーシャルロボットは、挨拶したり以前に行った会話を覚えたりできる。彼女は約7年前に世界に披露され、シンガポールの保険会社で働いている。また、2023年2月以来、1億人以上がChatGPTを利用している。
私たちがより多くのアンドロイドやAIと対話し彼らのリアリズムが向上するにつれて、不気味さを感じなくなるのだろうか?
「それは難しいだろう。」
ウィスコンシン大学マディソン校コンピューター科学の教授、ビルゲ・ムトゥルは言う。
研究者たちは、不気味の谷に繰り返しさらされれば不気味の谷の反応は弱まるだろうと予想しているが、ムトゥルは、彼自身にとってはその感覚は強くなる一方だと言う。
マクドーマンもまた、世代的な感じ方の違いがあるのではないかと考えている。
彼は、2020年にロボット工学者の石黒浩が自分自身を模して作ったアンドロイド”ジェミノイドH1”を発表したとき、年配の男性が部屋に入ってきて、アンドロイドはどこにあるのかと尋ねたことを指摘する。その男性の隣にアンドロイドがいたにもかかわらず、だ。
人間とロボット 相互作用の未来
森は不気味の谷から逃れるためのいたってシンプルな解決策を持っていた。人間に似たロボットを作らなければ良いのだ。
しかし、マクドーマンのような現代のロボット工学者の多くは、その解決策に納得していない。
彼らは、ロボットの外見や行動をより人間的なものにしようとしている。人間について根本的な疑問を投げかけ、ロボットが人間の生活にシームレスに溶け込めるようにするためだ。
しかし、これには倫理的な疑問がつきまとう。
人間ではないロボットは、どこまで人間らしくあるべきなのか?
人工的な存在と相互作用していることを人々は知るべきなのか。また、人工知能は私たちについてどれだけの情報を持っているべきなのか。
ムトゥルは、すべてのロボットが人間とまったく同じように見え、行動する必要はないと考えている。
どのような目的でロボットを使うかを慎重に考え、適切に設計すべきだと彼は言う。
また、私たち自身でもできるような重要な決断をロボットにさせる必要もない、と彼は付け加える。
現在でも、人工知能は保険金請求の判断や、人を刑務所に入れるかどうかの判断に使われている。ロボット学者やAIの研究者たちは、人間の能力を回復させるか、あるいはそれを超えるようなヘルパーを作ることにもっと力を注いでほしいと彼は願っている。
出所:https://www.nationalgeographic.com/science/article/ai-uncanny-valley
※この記事は2023年6月に掲載され、2023年9月に更新されたものです。