TikTokは2026年10月14日(現地時間)、仏カンヌで開かれた国際映像見本市「MIPCOM」で、クリエイター事務所系のスタジオ「Made By Us Studios」と提携すると発表した。TikTokの公式発表によれば、クリエイターが主演する縦型のマイクロシリーズ(1話1分前後のショートドラマ)を複数本、共同で制作する。配信先は、TikTokと、同社のショートドラマ専用アプリ「PineDrama」だ。第1弾として、Hannah Stocking主演の「Player」と、Adam Rose主演の「The Knock」の2作品が明らかにされた。
Made By Us Studiosは、米ロサンゼルスのクリエイター事務所「MADE BY ALL」が持つ制作スタジオである。TikTokがこの形の提携を結ぶのは2件目だ。1件目は俳優イッサ・レイの制作会社「Hoorae」との提携で、その作品「Screen Time」は、4月の公開から全世界で約5億8,000万回再生された。TikTokは、TikTokとPineDramaの両方で過去最高の成績を挙げた作品だとしている。今回は、事務所が出演者を送り出すだけでなく、制作の側にも入る座組みである点が新しい。
一方で、契約期間、独占かどうか、収益の分け方といった条件は、公式発表には書かれていない。PineDramaは米国とブラジルで公開された後、メキシコ、インドネシア、ベトナム、タイにも提供国を広げた。日本のApp Storeにも9月17日付で掲載されているが、日本での提供開始を伝えるTikTokの発表は確認できなかった(10月19日時点)。本稿では、公式発表と報道を読み比べ、確認できる事実と未公表の条件を切り分ける。そのうえで、前例のScreen Timeの再生数を計算し直し、国内の事務所やブランドがショートドラマ案件に「出演」「制作」「配信権」のどこで関わるかを決めるためのチェック項目を示す。
何が発表されたか──2作品の座組みと、事務所の立ち位置
今回の発表で目を引くのは、2作品とも、出演・脚本・制作の各工程にハリウッドの制作陣が入っている点だ。ネット発の低予算作品ではなく、映画やテレビの作り手とクリエイターを組み合わせている。主演のクリエイター本人が、出演者以上の役割を担う作品もある。公式発表とTheWrapの報道から、作品ごとの座組みを整理した。
| 項目 | Player | The Knock |
|---|---|---|
| ジャンル | 恋愛を軸にした復讐スリラー | ジャンル作品(TheWrapはタイトルに触れず「新しいジャンル」の作品と紹介) |
| 主演 | Hannah Stocking(TikTokのフォロワー2,970万人) | Adam Rose(同700万人)。共演は「Pretty Little Liars: Original Sin」のZaria Simone |
| 主演クリエイターの役割 | 原案の共同執筆、エグゼクティブ・プロデューサー | 公式発表では出演のみ記載 |
| 制作陣 | プロデューサーJonas Barnes、脚本Arun Blair-Mangat・Chela Reyna、監督Louiza Zouzias | 企画・監督R.H. Stavis。「パラノーマル・アクティビティ」などのSpooky Picturesが、MobyのLittle Walnut Productionsと共同で製作総指揮。音楽はMoby |
| 配信開始日 | 公式発表に記載なし | |
Playerで、Hannah Stockingは原案の共同執筆とエグゼクティブ・プロデューサーを兼ねている。主演のクリエイターが、作品の中身と権利の側に立つ構造だ。TikTokでエンターテインメントとマイクロシリーズを統括するDawn Yangは、公式発表で「マイクロシリーズは、物語の新しい言語を切り開いている」と述べ、今回の作品群を「クリエイターを中心に据えたもの」と位置づけた。Made By Us Studiosの共同CEO、Tanya Cohenは「テレビを小さくしたものを作ることが機会なのではない」と語っている。縦型の画面とおすすめフィードを前提に、一から作る考え方を示した発言だ。
確認できる事実と、公表されていない条件を切り分ける
この発表は、媒体によって書き方が少しずつ違う。特に契約の条件は、書いている媒体と書いていない媒体がある。国内で「TikTokが事務所と独占の複数年契約」と紹介される前に、どの記述が誰の発表に基づくのかを分けておきたい。TikTokの公式発表、TheWrap、MediaPostの3つを、項目ごとに突き合わせた。
| 項目 | TikTok公式発表 | 報道 | 本稿の扱い |
|---|---|---|---|
| 提携の内容 | クリエイター主演の縦型マイクロシリーズを複数本、共同で制作する戦略的提携 | 3者とも一致 | 確認済み |
| 契約期間 | 記載なし | TheWrapは「複数年」。MediaPostは触れていない | 未公表。TheWrapの報道としてのみ扱う |
| 独占かどうか | 記載なし | TheWrapは「TikTokとPineDramaの独占」。MediaPostは触れていない | 未公表。TheWrapの報道としてのみ扱う |
| 収益の分け方・制作費 | 記載なし | どちらの媒体も報じていない | 未公表 |
| 2作目のタイトル | The Knock | TubefilterはThe Knock。TheWrapはタイトルに触れていない | 公式発表に従いThe Knockとする |
| 配信開始日・話数 | 記載なし | 報じられていない | 未公表 |
この表から言えるのは、公式に確かめられるのは「共同制作する」「配信先はTikTokとPineDrama」「第1弾は2作品」の3点にとどまるということだ。複数年や独占といった条件は、TheWrapの報道では書かれているが、TikTokは公式には示していない。国内の事務所が同種の座組みを検討するとき、参考になるのはむしろ公表されていない部分である。期間、独占の範囲、収益の分け方は、どの提携でも交渉の中心になる。今回の発表は、その答えを教えてくれない。
前例「Screen Time」の約5.8億再生を読み直す
TikTokがこの形の提携を続ける根拠として挙げているのが、Hoorae制作のScreen Timeだ。TheWrapによれば、提携は4月8日に発表された。TikTokとHooraeは、追加のマイクロシリーズも共同で開発し、TikTokとPineDramaでのみ配信する予定としていた。同紙の続報によれば、第1幕は4月29日に公開された。1話は約1分で、5月13日の時点では最初の27話が配信されており、第2幕は5月22日に公開される予定だった。公開から1週間の再生数は約7,500万回だったという。
この数字と、10月14日の公式発表にある「約5億8,000万回」を使って、日割りの再生数を計算した。4月29日から10月14日までは168日になる。期間全体の平均は1日あたり約345万回だ。最初の1週間は1日あたり約1,070万回で、その後の161日は約5億500万回、1日あたり約314万回になる。公開直後の勢いは3分の1ほどに落ちたものの、その後も5か月以上にわたって1日300万回前後で再生され続けた計算である。
ただし、この計算には限界がある。第2幕の追加で配信本数が増えており、1本あたりの再生数が伸びたのか、本数が増えて合計が積み上がったのかは区別できない。また、TikTokとPineDramaの内訳や、再生数の数え方(1話ごとの合計なのか)も公表されていない。それでも、公開時の山だけでなく長く再生される作品になったことは読み取れる。単発のPR投稿とは寿命が違う。ブランドがこうした作品に関わるなら、公開直後の数字だけでなく、数か月単位の露出を前提に条件を決める必要がある。
Made By Usはどんな会社か──事務所が「スタジオ」を持つ意味
今回の提携相手は、制作会社ではなく、事務所が自ら立ち上げたスタジオである点に意味がある。業界メディアNet Influencerの5月7日の記事によれば、親会社のMADE BY ALLは、Leanne Periceが2017年に設立した事務所だ。40組のクリエイターを抱え、合計のフォロワー数は15億人を超えるという(5月時点)。そのMADE BY ALLが立ち上げたのがMade By Us Studiosで、共同CEOには、大手エージェンシーのWMEやRange Media Partnersで実績を積んだTanya Cohenが就いた。
同じ記事によれば、Made By Usは、クリエイターを「IPの所有における上流のパートナー」と位置づけている。作品の収益化と長期的な価値づくりに、クリエイター自身が関わる設計だ。オーディエンスがすでにいる状態で企画を立てる点も特徴に挙げている。6月17日には、電通のエンターテインメント部門Dentsu Entertainmentと独占・複数年の提携を結んだと発表している。電通の発表によれば、ブランドは、作品ができた後に周りの枠を買うのではなく、最初のアイデアの段階からそのIPに参加できるという。
つまり、Made By Usは、プラットフォーム(TikTok)とも広告会社(電通)とも組み、出演者・IP・ブランドの3つを結ぶ位置に立とうとしている。事務所の収益は、これまでブランド案件の出演料が中心だった。制作の機能を持てば、作品そのものの権利や、配信先から得る対価にも手が届く可能性がある。韓国のMCNが分野を絞って再編を進めている動きは、韓国MCNの特化とM&Aを扱った記事で取り上げた。事務所の役割を組み直す流れは、海外で同時に進んでいる。
PineDramaとは何か──日本のApp Storeにも登場、公式発表はまだ
配信先のPineDramaは、TikTokが2026年1月に公開したショートドラマ専用のアプリだ。TechCrunchによれば、米国とブラジルで目立った告知もなく公開された。iOSとAndroidに対応し、1話約1分の作品を、公開時点では無料・広告なしで配信していた。同紙は、この形が今後変わる可能性もあると指摘している。その後、提供国は広がった。Epidemic Soundの7月24日の解説記事は、米国、ブラジル、メキシコ、インドネシア、ベトナム、タイの6か国で使えるとしており、日本はこの中に入っていない。同記事によれば、話と話の間などに広告も入るようになった。主な競合は、ReelShortやDramaBoxといった既存のショートドラマアプリである。
TikTok本体にも、ショートドラマを見る場所が用意されている。TechCrunchによれば、2025年の終わりにTikTokのアプリ内に「TikTok Minis」という区画が加わった。今回の作品もTikTok本体とPineDramaの両方で配信されるため、日本の利用者がTikTok本体で見られるかどうかは、作品ごとの配信地域による。配信地域は公式発表に書かれていない。PineDramaは、日本のApp Storeにも2026年9月17日付で、日本語の説明つきで掲載されている(10月19日に確認)。ただし、日本での提供開始を伝えるTikTokの発表や報道は確認できなかった。
国内の事務所やブランドにとっては、海外向けの作品に出演や制作で関わる話と、日本の利用者に届ける話を分けて考える必要がある。ショートドラマの最大の市場である中国では、規制の動きも出ている。その経緯は中国の縦型ショートドラマ規制の記事で整理した。TikTokとIPを持つ企業の提携としては、ファン動画をDisney+に載せる別の形の契約をディズニー×TikTokの記事で扱っている。
「出演」「制作」「配信権」──事務所・ブランドが関わる位置を決めるチェック項目
ショートドラマ案件への関わり方は、大きく3段階に分けられる。クリエイターを出演者として出す「出演」、企画や制作を担う「制作」、作品の権利を持ってどこで配信するかを決める「配信権」だ。段階が上がるほど得られるものは大きくなるが、負うリスクと必要な体制も増える。今回の発表とMade By Usの事例をもとに、それぞれの段階で確かめる項目を本稿が整理した。公式の基準ではなく、検討の出発点として使ってほしい。
| 関わり方 | 確認すること | 今回の発表から読めること |
|---|---|---|
| 出演 | 出演料の形(一括か、再生数に連動するか)。作品の公開期間と、SNSでの告知投稿の扱い。競合ブランドとの共演制限 | Screen Timeは公開から5か月以上再生が続いた。露出期間を区切らない契約は、出演者の別案件を縛るおそれがある |
| 出演+クレジット | 原案やプロデューサーとしてのクレジット。その対価と、権利の取り分 | Playerでは主演のクリエイターが原案の共同執筆とエグゼクティブ・プロデューサーを兼ねる |
| 制作 | 脚本家・監督・撮影の体制を自前で持つか、外部と組むか。制作費の出し手と、予算超過の負担 | Made By Usは、ハリウッドの制作会社や作り手と組んで制作している。制作費の負担の分け方は公表されていない |
| 配信権 | 独占の範囲(プラットフォーム、地域、期間)。独占が終わった後に、他のプラットフォームや長尺版へ展開できるか | 独占かどうかは公式には未公表。TheWrapは独占と報じている |
| ブランドの参加 | 商品を作中に出すのか、企画段階からスポンサーとして入るのか。PR表示の方法 | 電通との提携では、ブランドが最初のアイデアの段階からIPに参加できるとしている |
| 日本での展開 | 配信地域に日本が入るか。日本語字幕や吹き替えの権利を誰が持つか | 7月時点の報道では提供国に日本は入っていなかったが、日本のApp Storeには9月17日付で掲載がある(10月19日確認)。日本向けの公式発表は未確認 |
この中で、国内の事務所が最初に決めておきたいのは「配信権」をどこまで求めるかだ。出演だけなら、通常のブランド案件の延長で対応できる。だが、作品の権利を持たないかぎり、Screen Timeのように長く再生される作品になっても、その価値は事務所に戻りにくい。逆に、権利を持つなら、制作費と、ヒットしなかったときの損失も引き受けることになる。素材をどの媒体でいつまで使えるかを契約で決める考え方は、「二次利用込み」のPR案件の記事で整理した。ショートドラマの契約でも、期間・媒体・改変の範囲を分けて決める点は変わらない。
ブランドの側では、商品を作中に出すのか、企画の段階から関わるのかで、必要な予算と関与の深さが変わる。今回の発表は、TikTokが自らショートドラマの作り手を集め、事務所がその受け皿になりはじめたことを示している。ただし、契約の条件は公表されておらず、PineDramaの日本向けの公式発表もまだない。2作品の配信開始日や、日本の利用者が今回の作品を見られるかどうかは、TikTokの今後の発表で確かめながら判断したい。
本記事は、株式会社TORIHADAが運営するクリエイターエコノミー専門メディア「CREATORS POST」がお届けしました。最新のマーケティング・クリエイター動向を、実務目線で発信しています。
この記事はAIを活用して書いています。



