米国のWalmartは2026年10月21日(米国時間)、AIエージェントが利用者の代わりに買い物をするための仕組みを発表した。TechCrunchによれば、中身は3つある。1つ目は、MCP(Model Context Protocol)で承認済みのエージェントをWalmartにつなぐ「Agent Gateway」。2つ目は、エージェントごとの購入履歴を分けて管理する「Agent Profiles」。3つ目は、エージェント向けの規約だ。Agent Profilesでは、利用者が取引ごとに承認するか、自分で決めた支出上限の範囲で事前に承認するかを選ぶ。規約には、エージェントの誤動作による購入でも通常の返品手続きを使えること、規約に違反したエージェントは遮断することが書かれている。
反対の対応をとっているのがAmazonだ。PPC Landによれば、Amazonは9月20日、MetaのAIエージェント「Muse」がAmazon.comで注文できないようにした。Shopifyは10月13日、エージェントが商品検索からカートの作成、Shop Payでの決済までを行える「Shop MCP」を開発者向けに公開した。今回の発表でWalmartはエージェントを受け入れる側に回り、Amazonは止める側にいる。Shopifyは、エージェント経由の購入を決済まで自社の仕組みで扱う。大手のEC事業者の対応は、この3通りに分かれた。
WalmartのAgent GatewayとAgent Profilesは、米国のWalmartとSam’s Clubが対象で、日本での提供は発表されていない(10月25日時点)。ただし、Museは10月23日に日本でも提供が始まった。日本の消費者がエージェントに買い物を頼み、そのエージェントが自社ストアに来る状況は、すでに起こりうる。本稿では、3社の対応を同じ表で比べる。そのうえで、日本のD2C・ECが自社ストアを「エージェントに開くか、閉じるか」を決める基準と、支出上限・承認・返品の責任の考え方を整理する。最後に、Shopifyなどのカート基盤で今確認しておく項目をまとめる。
何が発表されたか──Walmartの3つの仕組みと、Amazonの遮断
Walmartの発表は、サンフランシスコで開かれたMasters of Scale Summitで行われた。TechCrunchによれば、社長兼CEOのJohn Furner氏は登壇の場で、AIエージェントが一般的になる世界への備えを語った。Walmartは以前から、ChatGPTやGeminiとの連携を提供しており、9月にはMeta(Muse)との提携も発表していた。今回の発表は、これを個別の連携から、承認したエージェントが共通の入り口からつながる仕組みに広げるものだ。
TechCrunchとロイター配信のKSLの記事によれば、Agent Gatewayにつないだエージェントは、Walmartのオンラインの在庫を検索し、利用者の代わりに購入できる。利用者は、購入履歴などの個人情報をエージェントに直接渡さずに、いつものブランドや商品を買える。Agent Profilesは11月から順次提供される予定だ。あるエージェントで初めてAgent Gatewayを使うと、そのエージェントの専用のプロフィールが作られる。利用者はこれをWalmartのアカウントにつなぎ、承認の方法や上限を決める。プロフィールはいつでも削除できる。WalmartのアカウントがあればWalmart+の会員でなくても使える。Walmartは、この仕組みをクレジットカードの家族カード(取引が誰のものか分かり、利用額に上限を付けられる)にたとえている。
エージェント向けの規約は、4つの点を定めている。利用者が意図した以上の行動をしないこと。支払い情報にアクセスしないこと。作業に必要な情報にしか触れないこと。そして、規約に従わないエージェントはWalmartのサイトから遮断することだ。返品については、エージェントが意図どおりに動かなかった場合も含めて、Walmartの通常の返品手続きが適用される。報道では「承認済みのエージェント」とされているが、どういう条件で承認するのかは、本稿で確認した報道には書かれていない。
Amazonの遮断は、これとは逆の判断だ。PPC Landによれば、Museを使ってAmazon.comで買い物をしようとすると、「許可されていないAIエージェントによるアクセスの継続は、利用規約に違反する」という趣旨の表示が出る。Amazonは理由として、Museが自社のストアで動くことに同意していないこと、Metaから事前の連絡がなかったこと、Museが閲覧時にエージェントであることを名乗らないことを挙げた。また、Museが利用者のログイン情報を取得して保存しているように見える点も問題にしている。同じ報道によれば、AmazonはMetaと直接協議しているという。Amazonは、自社のエージェント「Buy for Me」では、エージェントであることを名乗り、他社のサイトで買い物をする際にブランド側が拒否できる仕組みにしている。つまりAmazonは、エージェントそのものを否定しているわけではない。名乗らない、許可を得ていないエージェントを拒んでいる。
Walmart・Amazon・Shopifyを同じ表で比べる
3社の対応は「受け入れる」「止める」と単純に分けられがちだ。しかし、項目ごとに並べると、どの社も「誰がエージェントを認め、誰が最後に支払いを承認するか」を決めている点は共通している。違うのは、その線をどこに引くかだ。以下は、公式の資料と報道で確認できた範囲をまとめた表だ。確認できなかった項目は「記載なし」とした。
| 項目 | Walmart | Amazon | Shopify |
|---|---|---|---|
| 基本の姿勢 | 承認したエージェントを受け入れる | 許可のない外部のエージェントによる購入を遮断する(Museの例) | 自社の決済の仕組みを通すことを条件に受け入れる |
| 接続の方法 | Agent Gateway(MCPサーバー) | 外部のエージェント向けの接続口は、本稿で確認した資料に記載なし | Shop MCP(Shopify Catalogの検索、カート、Shop Payでの決済) |
| 支払いの承認 | 取引ごとの承認か、支出上限の範囲での事前承認(Agent Profiles、11月から提供予定) | ― | 利用者が合計金額と支払い方法を確認してから、エージェントが決済を完了する |
| 支払い情報 | エージェントは支払い情報にアクセスできない | Museがログイン情報を保存しているように見える点を、遮断の理由に挙げている | Shop Payを使う場合、利用者がShopに一度サインインする |
| 購入履歴の管理 | エージェントごとのプロフィールに分けて表示する | ― | エージェント経由の注文も、ストアの管理画面にほかの注文と同じように表示される |
| 誤動作・返品 | エージェントが意図どおりに動かなかった場合も、通常の返品手続きを適用 | ― | チェンジログに記載なし |
| 違反したときの対応 | 規約に従わないエージェントは遮断 | 利用規約違反として購入を遮断 | Shopify運営のストアの案内では、決済フォームをスクリプトで操作することを禁じている |
| 日本での提供 | 発表されていない(10月25日時点) | Amazon.co.jpでの扱いは確認できなかった | Shop MCPの対応国・通貨はチェンジログに記載なし |
Shopifyの欄は、主に10月13日のチェンジログによる。チェンジログによれば、Shop MCPはShopify Catalogの10億点を超える商品を、APIキーなしで検索できる。エージェントは、販売するストアでカートとチェックアウトを作り、利用者が合計金額と支払い方法を確認したあとに、決済完了の操作を呼び出す。決済の状態の通知(Webhook)は公開の時点ではなく、状態はエージェントの側から問い合わせて確かめる。Shopifyは9月21日、MuseでShop Payを使った決済ができるようになるとも発表している(PYMNTS)。Amazonに遮断された翌日の発表だった。
なお、Googleも「Agent Gateway」という名前の仕組みを持つ(Gemini agentの記事)。Googleのほうは、企業が社内で使うエージェントの権限を管理する仕組みだ。名前は同じだが、Walmartのものとは役割が違う。社内で読み合わせるときは、取り違えないよう注意したい。
「開く」か「閉じる」か──判断を分けたのは何か
WalmartとAmazonは、どちらも外部のエージェントを無条件には入れていない。Walmartは承認したエージェントだけをつなぎ、規約違反なら遮断する。Amazonは、許可を得ず名乗らずに来るエージェントを止めている。違いは、エージェントのための「正規の入り口」を用意したかどうかにある。入り口があれば、エージェントがどこから来たかを識別でき、規約を守らせられる。入り口がなければ、画面を自動で操作するエージェントは、人間の買い物客と区別がつかない。Amazonが遮断の理由に「名乗らないこと」を挙げているのも、この区別のしにくさが背景にあると読める。
事業の立場の違いも大きい。PPC Landによれば、Amazonの2025年の広告売上は686億ドルだ。エージェントが商品を選び、利用者が商品ページを見なくなれば、検索結果や商品ページに出す広告の価値は下がる。Amazonには自社の買い物AIもある。外部のエージェントに買い物の入り口を渡すことには、事業上の損失が大きい。Walmartは、エージェントがどこで買うかを決める場面で選ばれる側に回ることを選んだ。Shopifyはストアの基盤を提供する立場なので、エージェント経由でも自社の決済が使われれば収益になる。
日本のD2Cの多くは、この3社のどれとも立場が違う。自社のストアで広告枠を売っているわけではなく、売上の多くは商品そのものから生まれる。エージェントが商品ページを読まずに購入しても、失うものは小さい。むしろ、エージェントに見つけてもらえず候補に入らないことのほうが損失になりうる。その一方で、支払いの不正、誤った注文、返品の負担は、大手のように吸収できる余力がない場合が多い。判断の軸は「開くか閉じるか」の2択ではなく、「どの入り口からなら受け入れ、誤った注文の負担を誰が持つか」を決めることになる。
自社ストアで決めること──支出上限・承認・返品の責任
Walmartの規約は、自社ストアのルールを考えるときの見本になる。とくに参考になるのは、利用者を守る線と、エージェントに課す線を分けて書いている点だ。利用者を守る線は、エージェントの誤動作による購入でも通常の返品を受け付けることだ。エージェントに課す線は、意図を超えない、支払い情報に触れない、必要な情報しか使わない、違反すれば遮断する、の4点だ。D2Cが同じことを考える場合、項目は3つに分けられる。
1つ目は支出上限と承認だ。Walmartでは、上限を決めるのは利用者で、店の側ではない。D2Cの側で上限を持てるとすれば、エージェント経由の注文に限って、1回の注文の金額や数量に上限を設ける形だろう。定期便のような継続課金や高額商品、在庫の少ない限定品は、取引ごとの人の承認がなければ受け付けない、という線の引き方が考えられる。Shop MCPでは、決済の前に利用者が合計金額と支払い方法を確認する手順が組み込まれている。Shopifyで販売しているD2Cは、まずこの確認の手順が、自社の高額商品や定期便でも同じように働くかを確かめておきたい。
2つ目は返品の責任だ。利用者は「エージェントが勝手に買った」と主張し、エージェントの提供者は「利用者が承認した」と主張する。この押し付け合いが起きたとき、返品を受けるかどうかを決めるのは店の側だ。Walmartは、エージェントの誤動作でも通常の返品を適用すると決めて、この議論を先に片付けた。D2Cも、エージェント経由の注文を通常の注文と同じ返品条件で扱うのか、未開封に限るのかを、特定商取引法にもとづく返品特約の表示と合わせて決めておく必要がある。決めずにいると、問い合わせ窓口で担当者ごとに対応が分かれてしまう。
3つ目は、エージェント経由の注文を見分けられるかどうかだ。Walmartは利用者の側に、エージェントごとの購入履歴を見せる。一方、Shopifyのチェンジログには、エージェント経由の注文は管理画面に「ほかの注文と同じように」表示されるとある。エージェント経由かどうかを区別する印があるかは、チェンジログには書かれていない。返品率や不正の傾向をエージェント経由とそれ以外で比べたいなら、注文の流入元をどう記録するかを、カート基盤の提供者やアプリの開発者に確かめておく必要がある。
日本のD2C・ECが今確認すること
Walmartの仕組みは米国の話だが、日本のストアに来るエージェントはすでにある。Museは日本で提供が始まり、ShopifyのストアではShop MCPを通じて決済まで進められる。ただし、Shop MCPがどの国と通貨に対応するかは、チェンジログに書かれていない。ストアがエージェントに何を求めているかも、ストアごとに違う。Shopifyが運営するストア(hardware.shopify.com)のrobots.txtは、エージェントにUCP/MCPの窓口を使うよう指示し、詳しい条件をagents.mdで示している。そこには、エージェントであることを名乗ること、注文と支払いは買い手の承認を得てから行うこと、決済フォームをスクリプトで操作しないことが書かれている。一方、ほかの事業者のShopifyストアでrobots.txtを開くと、こうした記載がない例もあった。2025年7月には、Modern Retailが、Shopifyのストアのrobots.txtに「チェックアウトは人間のためのもの」とする記載が入ったと報じていた。このときの書き方とも、いまの書き方は違う。自社のストアがエージェントに何を示しているかは、自分で開いて確かめるのが早い。確認する項目は、次の6つだ。
- robots.txtとagents.md:自社のドメインで開き、エージェントへの指示とMCPの窓口の記載があるか、自社の方針と合っているかを確かめる
- 決済前の確認:エージェント経由のチェックアウトで、合計金額と支払い方法を利用者が確認する画面が、定期便・予約商品・高額商品でも出るかを試す
- 注文の識別:管理画面や受注データで、エージェント経由の注文を見分けられるかを確かめる。見分けられなければ、記録の方法をアプリの開発者に問い合わせる
- 返品とキャンセルの条件:エージェント経由の誤った注文を通常どおり受けるかを決め、特定商取引法にもとづく表示と問い合わせ窓口の案内をそろえる
- 数量と在庫の制限:限定品や先着販売で、1人あたりの購入数の制限がエージェント経由の注文にも効くかを確かめる
- 商品データ:エージェントは商品ページの見た目ではなくデータを読む。商品名、サイズ、素材、配送日、返品条件が、テキストの属性として正しく入っているかを点検する
最後の商品データは、エージェントに開くか閉じるかに関係なく効いてくる。ChatGPTの試着機能やTikTokの買い物AIでも、商品データの整い方が表示を左右する構図は同じだ(TikTokのBuy Direct・Shopping Assistantの記事)。モールに出店している場合は、エージェントへの対応はモールの方針で決まり、出店者の側では選べない。Amazonへの出品者が使える業務AIについては、AmazonのセラーAIの記事で扱った。自社ストアとモールで、エージェントへの方針が逆になる可能性もある。
どこから手を付けるか
Agent Profilesは11月から提供予定で、承認の条件や運用の詳細は、提供が始まってから見えてくる部分が多い。Amazonの方針も、Metaとの協議の行方によっては変わりうる。いま自社ストアの方針を決めきる必要はない。ただし、決めずに放置すると、エージェントはそのストアの現在の設定のまま動く。まずやるべきは、robots.txtと決済前の確認画面を自分の目で確かめ、エージェント経由の注文の返品をどう扱うかを社内で1行で書いておくことだ。
そのうえで、受け入れるなら入り口と条件をはっきり示す。閉じるなら、何を理由に閉じるのかを説明できるようにしておく。Walmartが規約で示したのは、エージェントを受け入れることと、利用者を守る線を引くことは両立できるということだ。Amazonが示したのは、名乗らず許可も得ずに来るエージェントは拒めるということだ。日本のD2Cにとって現実的なのは、その中間だろう。決済の前に人が確認する手順を残したまま、エージェントに見つけてもらえるようにしておく。社内でエージェントにどこまで権限を渡すかという話は、Claude Duet・Muse・dotsを比べた記事で整理した。今回の話は、その逆側にある。外から来るエージェントに、自社のストアでどこまでさせるかの問題だ。
本記事は、株式会社TORIHADAが運営するクリエイターエコノミー専門メディア「CREATORS POST」がお届けしました。最新のマーケティング・クリエイター動向を、実務目線で発信しています。
この記事はAIを活用して書いています。



